不倫の慰謝料請求の制限を立法で|札幌で不倫・浮気の慰謝料請求に強い弁護士による【不倫慰謝料相談サイト】

コラム

不倫の慰謝料請求の制限を立法で

AとBの夫婦がいて、そのAと第三者Cとが、いわゆる不倫関係になった(不貞行為をした)場合、
現在の日本では、Bに対するAとCによる共同不法行為とされて、BはAにもCにも民法709条に基づき精神的苦痛の慰謝料を請求することができるとされています。


ただ、Bが婚姻関係にあるAに対して慰謝料請求をするのはともかく、第三者であるCに対してまで慰謝料請求を認めるのはおかしいと批判する学説は少なくないといわれています。

私も、Cに対する慰謝料請求は認められるべきではないと思います。

Aは、Bの所有物ではなく、自分の意思をもって行動する個人ですから、その個人が自らの責任で配偶者(夫・妻)ではない人と男女の関係になるのは、配偶者に対する責任は別として、基本的には自由です。

 

そもそも、AがBではない他の誰かと男女関係を結ぼうと決意した段階で、AB間の婚姻関係は既に終わっていると言えるでしょう。

また、Cにとっては、AB間の婚姻関係をことさら破壊するためというならともかく、Bに対してAB間の婚姻関係をCが保護・維持する義務はないはずです。夫婦関係は、AB間の合意によるものに過ぎないからです。

特に私が疑問なのは、AC間に子どもWができた場合、Wの出生の原因はBから慰謝料請求を受けるような違法な行為であると評価することが個人の尊重の観点から許されるのかという疑問です。
AがBに対して慰謝料の責任を負うのはAB間の婚姻関係という約束を破ったことによるとしても、CはBと何ら合意をしていない以上、Cに対して慰謝料の責任を認めるのであれば、Wの出生に至るCの行為を違法と評価することになります。

そうするとWの出生の原因となったCの行為が違法となると、Wは生まれながらにして違法な原因から生まれた者ということになってしまいます。

非嫡出子の法定相続分の差別的取扱を違憲とした最高裁判決や判決後の相続分についての民法改正と、Cの行為を違法と評価することとは整合しないように考えられます。(この点は、別の機会に詳述します。)

このように、私としては、Cに対する慰謝料請求は不当であると思いますし、判例変更を求めて最高裁まで争う機会があればと望んでいます。
(なお、現在の裁判実務では上記のとおりBのCに対する慰謝料請求は認められますから、Bの立場の方からの依頼を受けた場合はしっかりとCに対して慰謝料請求を行います。)

 

<新しい法律を作って制限する>

ただ、最高裁の判例の変更を求めるといっても、実際に上告まで争う事件のご依頼を受けるとは限りません。

また、通常は、最高裁まで行く前の判決か和解の段階で決着するのが、不倫事案の当事者にとっては経済的な負担は少なくて済みますから、なかなか最高裁まで争うということにはならなさそうです。

最高裁判決の変更によらずにCの慰謝料の責任が否定されるには、法律で慰謝料請求を制限するという方法があります。
この方法も、現実には難しいでしょうし、無償でロビイング活動しようとは思いませんので、一つのアイデアの表明ということでお読みいただければと思います。

失火責任法という失火によって他人に損害を与えた場合の不法行為(民法709条)の賠償責任を制限する古い法律があります。

参考【失火ノ責任ニ関スル法律】
民法第七百九条ノ規定ハ失火ノ場合ニハ之ヲ適用セス但シ失火者ニ重大ナル過失アリタルトキハ此ノ限ニ在ラス

 

この失火責任法を下敷きに、上記の事例のCに対するBの慰謝料請求を原則として制限する民法の特別法【配偶者の責任に関する法律】(配偶者責任法)を次のように考えてみました。

1条のみの法律です。

【配偶者の責任に関する法律】

民法709条の規定は、特段の事情のない限り、夫婦の一方が不貞な行為をした場合には適用しない。ただし、配偶者が不貞な行為をした他方配偶者に対して損害賠償請求をするときはこの限りでない。

 

夫婦の一方が不貞行為を決意した夫婦関係については第三者がもはや侵害しようもないことから、不倫の行為の違法性を原則として否定することを明示したものです。
この立法によって、いわゆる美人局(つつもたせ)も基本的にできなくなります。

ただ、夫婦の一方が不倫をした他方に対して(上記のBがAに対して)慰謝料請求をするのは、ただし書きで709条適用の否定から除いていますから、従来とおり請求できます。

Cが特に夫婦関係を壊すために不倫をしたというような特別の事情がある場合の慰謝料請求はできるような構造の条文にしています。

 

どこかの政党・議員が国会で実現してくれれば幸いです。

 

 

(マイベストプロ北海道のコラムで2018年8月22日公開したものを加筆修正しました。)