示談は裁判所を拘束しないということをSNSで流している人がいるようです。
示談の法的拘束力については、昨日のコラムに書きました。
有効に成立した示談については、訴訟になって裁判所で争われることになった場合、裁判所の判断は示談の内容に拘束されます。
もちろん、訴訟で、示談が無効であるとして一方当事者が主張立証して、裁判所が示談の無効を認めれば、無効な示談には拘束されません。
たとえば、不倫の慰謝料について100万円とする示談が成立していたとして、不倫されて慰謝料を請求する側の人が100万円の慰謝料では少ないから200万円の慰謝料を払えという訴訟を起こしたとしても、慰謝料100万円の示談が成立していたのであれば、100万円を超える慰謝料を裁判所は認めませんし、裁判所はその示談を無視して100万円を超える慰謝料を認定しません。
仮に不倫の慰謝料として3000万円の支払を約束する示談が成立していたとして、3000万円の支払いを求める訴訟が提起された場合、3000万円の示談に裁判所も拘束されるかというとそうはならないでしょう。不倫の慰謝料で3000万円は不当に高額過ぎるということで公序良俗違反でその示談は無効と認定されて、不倫の事実が立証されるのであれば、適宜の金額の慰謝料が認定されるでしょう。
不倫は犯罪ではないので、不倫慰謝料の事案では刑事裁判は問題になりません。
不倫以外で犯罪に関する事案での示談では、刑事事件での示談の扱いとしては、被害者が示談で処罰を求めないということで示談がまとまっていたのであれば、検察は起訴しない可能性が高いと考えます。被害者が処罰を望んでいないのに裁判所に起訴してしまうと、被害者が刑事裁判にも関与を強いられてかえって不利益になるからです。たとえば、性加害の被害者は示談で終わらせたいと思っているのに、警察が捜査を進め検察が起訴するということになれば、示談で内密に終わらせていた被害がより多くの人に知られてしまったりすることになります。なお、性加害の犯罪は、非親告罪つまり被害者の告訴が不要なので、示談が成立して告訴しないという合意が加害者との間であったとしても、検察が起訴することは可能です。
示談をしていたのに起訴された場合、裁判所は示談済みであるからといって犯罪不成立とはしませんので、その限定的な意味でいえば、示談は裁判所を拘束しないといえるかもしれません。
一般論として、示談は裁判所を拘束しないなどとは言えませんので、誤解されないようにしてもらいと思います。