不貞の慰謝料を請求される際に、探偵(興信所、調査会社)の調査費用も損害の一部として請求されることがあります。
この調査費用は、場合によっては、100万円前後あるいはもっと高額になることがあります。
調査の委託を受ける事業者は、不貞の相手方に調査費用も損害として請求できると説明しているのかもしれません。
しかし、裁判では、その調査費用が損害として認められるとは限りません。むしろ、損害に含まれないか、含まれても全額は認められない可能性があります。
配偶者の不審な行動を調査会社に調査を依頼して尾行してもらってかかった費用は、調査を依頼した人の負担となって、慰謝料の支払いを受けたとしても結果的に費用の方が多くかかるということもあり得ます。
私は、不貞の慰謝料請求を受けた側の訴訟では、調査費用について否定的な最近の裁判例を次のようにまとめて証拠として提出するようにしています。
番号 | 裁判所・判決日 | 調査費用についての裁判所の判断
認定された慰謝料額 |
1 | 東京地裁令和元年10月15日判決
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「原告による調査費用の支出が被告の不法行為から通常生じる損害に当たると認めることは困難であり、その支出については、精神的損害を基礎付ける事情の1つとして認められるにとどまる」とした裁判例。
慰謝料100万円。 |
2 | 東京地裁令和元年6月24日判決
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「調査費用は本件不貞行為と相当因果関係のある損害とは認められない」とした裁判例。
慰謝料150万円。 |
3 | 東京地裁令和元年5月10日判決
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探偵業者の調査費用について相当因果関係を否定した裁判例。
慰謝料130万円。 |
4 | 東京地裁平成31年3月26日判決
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調査会社に支払った調査費用について相当因果関係を否定した裁判例。
慰謝料120万円。 |
5 | 東京地裁平成31年3月11日判決 | 調査費用のうち3万円の限度で相当因果関係のある損害と認めた裁判例。
慰謝料30万円。 |
6 | 東京地裁平成31年1月11日判決 | 「いかなる方法、費用で証拠を収集するかは基本的に損害賠償をする者の判断によるもの」とした裁判例。
慰謝料100万円。 |
上記の裁判例6でいうように、調査費用は、「いかなる方法、費用で証拠を収集するかは基本的に損害賠償をする者の判断によるもの」というのが妥当な判断だと考えます。
調査会社にどのくらいの費用で調査を依頼するのかは、全て調査を依頼する人の判断によるものであって、不貞の慰謝料請求を受ける立場の人にはコントロールできないものだからです。
また、調査費用が実際にかかった金額や必要な応じた分の調査費用を損害として認めることは、弁護士費用相当額の損害が実際の弁護士費用ではなく、慰謝料など損害の10%として機械的に計算されている実務の扱いとバランスが取れないと考えられますし、その違いを理論的にも説明できないでしょう。
したがって、不倫の慰謝料請求を受けた場合に高額な調査費用も併せて請求されたとしても、調査費用までは責任を負うものではないと主張すべきです。