「家庭の法と裁判」という専門誌の25号(2020年4月号)に、
丹羽敦子・東京家庭裁判所判事の「離婚訴訟における関連損害賠償請求の範囲と審理」という論文が掲載されています。
この論文の中では、不貞の慰謝料に関係する内容も書かれています。
○ 離婚自体慰謝料(離婚原因を前提として、離婚を余儀なくされた経過全体から生じた精神的苦痛に対する慰謝料)は、
離婚原因慰謝料(離婚原因そのものから生じた精神的苦痛に対する慰謝料)を包含する、という指摘があります(44頁)。
記号で表すと、
離婚自体慰謝料 ⊃ 離婚原因慰謝料
となるでしょう。
○ 離婚自体慰謝料の方が離婚原因慰謝料より高額になるのが通常、という指摘もあります(44頁)。
離婚自体慰謝料 > 離婚原因慰謝料
○ 神野泰一「離婚訴訟における離婚慰謝料の動向」(ケース研究322号26頁)から、
平成24年4月~平成25年12月の東京家裁の離婚事件の判決での慰謝料についての、
平均認容金額153万円、最も多い認容金額が100万円、次に多いのが200万円という報告を引用し、
現在の東京家裁の離婚関連損害賠償請求について、
「離婚自体慰謝料を請求する側にも少なからず離婚に至った責任があるとして請求棄却とされることも多く、認容金額は300万円程度までの範囲にとどまる事案が多いようである」(45頁)、と指摘しています。
(認容金額というのは、裁判所が判決で認めた金額のこと)
これらの「離婚訴訟における関連損害賠償請求の範囲と審理」の指摘からすると、次のように考えられます。
☆ 「離婚訴訟における離婚慰謝料の動向」の報告からすると、
離婚自体慰謝料のいわば”相場”を、100万円から200万円の間で、平均約150万円と考えることができます。
☆ 特に増額事由があれば離婚自体慰謝料は200万円を超え、300万円程度になることがある。
☆ 不貞慰謝料のような離婚原因慰謝料は、離婚自体慰謝料よりも低額ですから、
不貞の慰謝料の”相場”は、100万円から200万円までの幅より低額で、平均としても150万円より低額であるというべきであると考えられます。特に増額事由があれば200万円に近づき、これを超えることがあると考えられます。
以上から、私見としまして、
離婚自体慰謝料とのバランスからすれば、不貞の慰謝料は、100万円前後くらいが通常とされるべきだと考えます。
今後の不貞慰謝料の実務として、「離婚訴訟における関連損害賠償請求の範囲と審理」の指摘を踏まえて、離婚自体慰謝料とのバランスが図られるべきだと考えます。