前回のコラムの続きで、『自由と正義』2023年5月号に載った不倫事件に関する懲戒処分のもう一つの件の紹介です。
第二東京弁護士会が戒告の懲戒処分にした件の内容は、上記『自由と正義」の公告によれば次のようなものでした。
弁護士法人Aが Bから Bの夫Cの不貞相手とされる人に対する慰謝料請求事件を受任して、
弁護士法人Aに所属していた弁護士が、B・D(Bの義母ということですからCの母と思われます。)・E(Bの義姉。たぶんCの姉。)・F(弁護士法人Aの事務員)の4名と、弁護士を入れて計5名で、
相手との事前の約束なく、
相手が2歳の子と一緒にいるところを保育園前で待ち伏せて、面談場所に移動し、
事務員Fが2歳の子どもの世話をさせている間、
弁護士・B・D・Eとともに相手と面談して、午後6時から午後9時まで約3時間、事実上拘束した。
弁護士は、B・D・Eから相手に対して発言がなされ、特にEから感情的な発言がされたのに、弁護士は制止せずに、少なくとも黙認した。
午後9時ころ、弁護士は、相手に対して、相手が夫Cと今後一切接触しないこと、違反した場合は違約金300万円を支払うことを内容とする誓約書への署名捺印を迫り、相手に十分な検討の時間を与えず、他の弁護士に相談する機会を与えないまま、誓約書に署名捺印させた。
上記の内容で問題となったポイントとしては、
①事前の約束なく待ち伏せして、不意打ち的に面談をして、短時間とはいえない時間、拘束したこと
②依頼者側の関係者が相手に感情的な発言をしているのに、黙認していたこと
③検討の時間を与えず、相手も弁護士に相談等をする機会も与えずに、誓約書に署名捺印させたこと
の3点と考えられます。
私としては、上記誓約書の内容についても、不貞相手とされる人と夫Cとの具体的関係は不明ですが、違約金300万円は高額過ぎて、相当なものではないのではないかと考えます。
①の待ち伏せして面談を事実上強要しているような点については、保育園で小さい子どもがいることを想定した中での行動ですので、
子どもがいて逃げたり拒否したりできない状況を利用した点について、個人的な感情としては強く非難したいところです。
弁護士として以前に、人として卑怯な振る舞いでしょう。
子どもを事務員Fに世話をさせていたとのことですから、半ば人質にしていたような状況だったのかもしれません(公告の記載からは不明です。)
約3時間の拘束というのも異常ですし、小さい子どもがいるのに午後9時まで拘束したというのもおかしいでしょう。
私としては、この点だけでも、戒告(注意)で済ますべきではなかったように思います。
一般論として、慰謝料請求権等を持つ債権者の立場であっても、債務者に対して面談を強要することはできません。もちろん、弁護士も誰かに対して面談を強要する権限はありません。
職場等に待ち伏せされたとか自宅に突然現れたからといって、面談に応じる義務は誰にもありません。
面談を強要されそうになったとか、執拗につきまとわれたという状況でお困りであれば、110番通報して警察を呼ぶのも一つの対処法です。
警察を呼ぶのは避けたいということであれば、後日連絡するということで穏便に帰ってもらうのがベターです。
上記の弁護士が何故、依頼者に同行して相手方に会いにいったのか、弁護士として疑問です。
不貞の問題に限りませんが、トラブルの当事者が直接会って交渉しようとすれば、感情的になって暴行事件に発展したり、脅迫や恐喝の問題にもなりかねません。金銭の問題である民事事件の当事者(依頼者)を刑事事件に巻き込むリスクのある行動をするのは弁護士としてはいかがなものかと思います。
弁護士としても、いきなり相手方本人と直接会うことは、暴行や脅迫のトラブルに弁護士自身が巻き込まれるおそれがありますので、避けるべき行動だったと考えます。
余談ですが、弁護士が3時間も本件のような面談に参加したというのは、ヒマだったのかなとも勘ぐってしまいます。
②の依頼者Bの義姉Eが感情的な発言をしていたのを黙認していたという点については、慰謝料請求の債務者(加害者)であったとしても、感情的に責められることを我慢する義務はありません。
また、義姉Eが相手に対して、生命・身体・自由・名誉・財産に対して害を与える旨を述べてしまったとしたら、義姉Eは脅迫罪の問題になりますし、面談場所がレストラン等の他者もいる状況で侮辱する言動を取ったとすれば侮辱罪の問題になります。さらに、そのような義姉Eの言動を止めずに黙認して続けさせていたら、依頼者の妻Bや当該弁護士も脅迫罪や侮辱罪の共犯に問われるかもしれません。
上記のとおり、相手方に対する関係でも依頼者側に対する関係でも、義姉Eの言動を制止しなかった当該弁護士の態度は問題だったでしょう。
一般論として、紛争の当事者でない家族親族友人知人が紛争に首を突っ込んでくると、紛争を拡大したり無駄に長引かせたり、紛争を増やしたりするおそれがあります。
上記の件であれば、妻Bが不貞相手とされる人に対して感情的なことを言うのはまだ分かります。不貞の問題は、妻Bと夫Cと不貞相手が当事者ですから、義姉Eは当事者ではありません。そんな義姉Eが相手に感情的な発言をぶつけるのか不思議なものです。
そもそも、義姉Eは夫Cの姉だと思われますから、文句を言いたければ夫Cに言えば良い話です。
変わった人はどこにでもいますし、普通の人でも慣れない状況で感情的になる人もいますから、当事者でない人を紛争に関わらせるのを避けるのが無難です。
③の検討時間を与えず、他の弁護士に相談する機会を与えずに誓約書に署名捺印させた点は、上記①で待ち伏せして不意打ちの面談をしたのが、誓約書に署名捺印させる目的の一つだったものと考えられます。
相手方を不意打ちして、困惑しているのに乗じて署名捺印させるのは、反社・ヤカラのやることでしょう。
当然、署名捺印を求められた書類に言われるがままに署名捺印しなければならない義務はありません。
万一、署名捺印を要求される場面にあったら、何とか冷静さを取り戻して、弁護士に相談してから対応するとして署名捺印を拒否していただきたいものです。
相手方を不意打ちして面談する、相手側に考える時間を与えずに書類に署名押印させる、というのは、弁護士が関与していなくても、
当事者本人でやったり、探偵(調査会社)等の第三者を同行してやったりする場合があります。
今回のコラムや前回のコラムのように、先方に弁護士が関与していたからといって、請求内容や請求等の手段が適切とは限りません。
ご自分の弁護士に相談・依頼することが大事です。