昨年末、週刊文春に
「進次郎 政治資金で『不倫ホテル代』」という記事が載りました。
小泉進次郎議員が独身時代に、既婚者の女性と不倫関係にあったという内容です。
以下のフライデーの記事が指摘によれば、普段は小泉進次郎衆議院議員(現在は環境大臣)を持ち上げて騒ぐテレビ等はほとんど報道していないようです。
小泉進次郎 不倫報道の相手実業家が大炎上でビジネスにも影響か
「小泉進次郎」や「不倫」は両方ともワイドショー等が大好きなネタなのに、二つ揃っているにもかかわらずスルーしているとは不思議ですね(笑)
さて、政治家といえども、不倫は私的なことなので、
不倫をしていたとしても不倫の是非については、基本的には当該夫婦の問題だと私は考えます。
しかしながら、政治家の不倫を含めて私的な事柄について報道することは、
有権者に公職にある者・公職に就こうと立候補する者について判断材料を提供し、
また、公職にある者が私利私欲を図っていないか等をチェックするために報道してもらう社会的意義は大きいです。
特に「さわやか」とかいうイメージだけの人気で中身の無い人物、代々の政治家というだけの人物については、
特に私的な事柄を報じて、化けの皮を剥いでおく社会的な必要もあるでしょう。
政治家に限らずまた真偽はともかく、
不倫をしたと報道されることによって、個人のプライバシーや名誉は侵害され得ます。
名誉毀損については、刑法で名誉毀損罪という犯罪も成立し得ます。
しかし、不倫の報道について、法的な問題にめったにならないのは、
違法性あるいは故意・過失がない場合に該当すると考えられるからです。
刑法
(名誉毀損)第230条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
2(略)
(公共の利害に関する場合の特例)第230条の2 前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。2 前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。3 前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
名誉毀損罪については、刑法に上記の特例があります。
この特例に該当する場合は、名誉毀損罪の違法性がないとされます。
この条文で名誉毀損罪の違法性が阻却されるのは、
名誉毀損にあたる事実を示したことが公共の利害に関すること(公共性の要件)、
その事実を示したことが公益を図る目的でされたこと(公益目的の要件)、
その事実が真実であると証明されたこと(真実性の要件)、
の3要件を満たす場合です(刑法230条の2第1項)
公務員や公選による公務員(議員など)の候補者に関する事実については、公共性も公益目的もあると扱われて、
真実性の要件が問題になります(刑法230条の2第3項)。
国会議員や大臣も公務員ですから、国会議員の不倫についての報道が名誉毀損罪に当たるとしても、
真実だと証明できれば、名誉毀損罪の違法性がなく、犯罪不成立ということになります。
なお、名誉毀損罪は、告訴がなければ裁判所に起訴できない親告罪(刑法232条)ですから、
不倫の報道をされた”被害者”があえて警察や検察に被害を訴えて告訴をしなければ、
実際には刑事事件として捜査されるということにはならないでしょう。
不倫の報道は、刑事事件とは別に民事事件の損害賠償請求事件としても問題になります。
名誉毀損の慰謝料請求としては、
刑事事件の名誉毀損罪と同じく公共性、公益目的、真実性の3要件を
名誉毀損をした側が主張立証して、
慰謝料の損害賠償責任を免れることができます。
また、真実性については、
真実だと信じたことに相当の理由があった場合には故意過失が否定されて、
損害賠償責任が成立しないとされています。
不倫を報じられた政治家が、報じた出版社を相手に慰謝料請求をすると、出版社側は、真実性を主張立証することになります。
その政治家の側からすると、報道されていない事実が訴訟において出てくるリスクもありますし、不倫問題で世間の火に油を注ぐおそれがありますから、
訴訟提起までするのは慎重になると考えられます。
名誉毀損とは別にプライバシー侵害に基づく慰謝料請求ということも、不倫の報道をされた側としては主張できます。
プライバシーというのは、みだりに他人に開示されないという法的保護を受ける私生活上の情報のことです。
不倫したことというのは、ごく私的な男女関係あるいは性的関係ですから、プライバシーといえます。
ただし、公人については、一定程度のプライバシーは放棄したものといえますので、
公人である国会議員の不倫の情報の報道は、
性行為の具体的な描写とかその画像等の公開というのであればともかく、
プライバシー侵害とまではならない場合が多いと考えられます。
したがって、政治家について不倫の報道をした側については、刑事責任や損害賠償(慰謝料)責任は問題とならないのが通常だと考えられます。
政治家の不倫相手とされた人が公人ではない場合、
その人にとっての名誉毀損やプライバシー侵害となるかどうかという問題も生じます。
以前のコラム「不倫と名誉毀損」で解説したように、
メディアではない一般の人が誰か他人の不倫を別の他人に告げた場合と同様に、
その不倫相手は、報道したメディアに対して名誉毀損の慰謝料請求をすることができる可能性があると考えられます。
ただし、報道機関としても、公人でない関係者に配慮して誰か分からないように(仮名やモザイクなどで)、通常は報道します。
ですから、報道された内容から不倫相手と特定されないのであれば名誉毀損もプライバシー侵害にもならないといえるので、
不倫したのが誰なのか特定できる報道内容かどうかが争点になるでしょう。
また、進次郎議員の不倫報道では、密会に政治資金が使われたという指摘がありますから、
不倫相手が公人ではなくても、
政治資金の使途の監視という点から、不倫相手が誰かということについても公共性や公益目的が認められそうにも考えられます。
今回の報道で、小泉進次郎氏やAさんが週刊文春の発行元の株式会社文藝春秋を相手に慰謝料請求をするとすれば、
真実性つまり不倫関係にあったことの証明を求めていくことになるでしょう。
今回の進次郎氏の報道の件が真実かどうかは存じませんけれども、
一般論として、
議員や首長(知事や市町村長)だけではなく、普通の公務員(メディアが取り上げる価値のある程度の幹部)と不倫関係を持つことは、
普通の不倫の危険(相手の配偶者に知られて慰謝料請求を受けるリスク)だけではなく、
メディアにバレて報道されて相手の配偶者の知るところになるおそれや、
メディアに不倫を報じられて社会的な信用や人気等を失うおそれがある、かなりリスキーな行為ということになります。
なお、不倫の話とは離れますけど、上記の週刊文春の記事では、女性経営者とされるAさんについては、記事だけを見た限りでは、どこの誰かは分からないようにされているようです。
ただ、今の時代は、顔にモザイクを掛けた画像だけでも、インターネットで元の画像を探し出して誰かを特定して公開する第三者がいます。
上記のAさんも既に特定されており、「進次郎 不倫相手」などといった検索ですぐにAさんが誰かを特定したサイトが見つかってしまいます。
記事だけを見て特定できるかどうかを検討すればいいのか、そういう”おせっかいな第三者”の行為までを想定して報道しなければならないのか、
といった問題が、報道による名誉毀損・プライバシー侵害の訴訟では争点になりそうです。
名誉毀損・プライバシー侵害の事案に関心のある弁護士としては、裁判所でどのような判断がされるのか興味深い点です。