弁護士は「品位を失うべき非行」があった場合、所属弁護士会から懲戒を受けます。
弁護士会から懲戒を受けると、日本弁護士連合会(日弁連)の会報の『自由と正義」という月刊誌に、弁護士名や懲戒処分の内容、処分の理由の要旨などが載ります。
『自由と正義』2023年5月号に不倫事件に関する懲戒処分が2件、載っていました。
このうちの1件は、神奈川県の弁護士に対する懲戒処分です。
この懲戒処分は、戒告(注意)という結果でした。
この件で、「品位を失うべき非行」にあたるとされた内容は、次のようなものでした。
Aの妻Bとの不貞行為を理由とする慰謝料請求の依頼を受けた当該弁護士が、
慰謝料の金額的相場、
AとC(Aの子)との血縁上の親子関係に疑義を生じさせるに足りる事実、
妻Bとの不貞行為をうかがわせるに足りる事実、
等についての必要かつ可能な調査をすることなく、
不貞行為の相手とされる人に対して、
Bとの長年の不貞行為や、CがAではなく相手の子ではないかとAが強い疑念を抱いていることを理由として、
慰謝料3000万円を請求する通知書を送ったこと、です。
上記通知書で請求した慰謝料額は、300万円ではなく、3000万円です。
この慰謝料3000万円というのが日本の法律実務でどのくらいの金額かというと、
死亡交通事故の事案で亡くなった被害者本人分としての慰謝料の金額が2000万円台というのが相場と考えられることから、
3000万円はかなり高額なものだといえます。
不貞行為の慰謝料の相場としては、たいていは100万円から200万円の間で裁判所に認定される場合が多いことから、
不貞の慰謝料の相場感としても3000万円は異常に高額なものともいえます。
神奈川県弁護士会がどういう点に重点を置いて、「品位を失うべき非行」としたのか、また、処分の結論として「戒告」となったのかは、『自由と正義』に載った内容からは分かりません。(なぜ懲戒処分となり、懲戒の結論となったのかが弁護士一般にも世間一般にもよく分からないことになっている現在の弁護士会の懲戒制度の運用には問題が多いと思っています。)
察するに、事実確認をおろそかにしたことと、請求額が依頼者の要望だったとしても高額過ぎたというところが問題だったのかと思います。
3000万円の慰謝料請求を受けた相手が実際に妻Bとの不倫相手と断定もできなかったのかもしれないし、
子Cが確かにAの子だったのかもしれません。
そうであれば、事実の根拠を欠くのに過大な慰謝料をふっかけたことになるでしょう。
一般論として、弁護士から通知書が届いたとしても、その請求金額や請求の根拠となった事実関係が適切とは限りませんので、
不倫を実際にしているかどうかにかかわらず、何か通知書が届いたら自分で判断せずに自分のために相談にのってくれる弁護士に早めに相談すべきでしょう。
なお、私見ではありますが、上記のAさんの主張のとおり、子CがAさんの子ではなくて、妻Bと相手方の子ということであったのであれば、
慰謝料3000万円という請求もおかしくはなかったかもしれません。
いわゆる”托卵”ということであれば、他人の子であるCを長年養育させられてきたAさんの精神的苦痛や経済的な負担は多大であったといえるので、通知書でまずは請求する金額としておかしくはなかったとも考えられます。
ただし、Cが本当に相手方の子であったとしても、裁判所で最終的に認定される慰謝料金額は3000万円に届かないことは十分あり得ます。
もう1件の懲戒事例については、別の機会に紹介したいと思います。