高額すぎる慰謝料(不倫事件関係の弁護士懲戒3)|札幌で不倫・浮気の慰謝料請求に強い弁護士による【不倫慰謝料相談サイト】

コラム

高額すぎる慰謝料(不倫事件関係の弁護士懲戒3)

日本弁護士連合会(日弁連)の『自由と正義』2019年1月号の公告に載った、東京弁護士会による弁護士の懲戒処分を紹介します。
懲戒された弁護士は、テレビラジオやネットの広告で非常に有名な法律事務所(弁護士法人)の弁護士でした。(広告量からすれば、たぶん一般の認知度だけは日本で一番の事務所だと思います。)

懲戒処分としては、業務停止1月というものでした。1か月間、弁護士の業務を禁止されるという処分です。

 

妻から夫の不倫相手に対する慰謝料請求事件の担当となった弁護士に対する懲戒です。弁護士法人自体は懲戒されてはいません。

この事案は、この夫婦の婚姻関係が破綻には至っておらず、不倫(不貞行為)の証拠がこの弁護士法人の作成した定型的書式に概括的に記入された夫名義の文書だけで、不倫相手とされる相手に不倫を否定されたら慰謝料請求権そのものの存在が否定されかねないものでした。

次の点が懲戒理由のポイントとなったようです。
・およそ判決では認容され難い500万円もの慰謝料請求を目的としたこと
・不倫相手とされる方が単身で居住しているのを知りながらあえて受任通知を送付しなかったこと
・5日間にわたり相手方の携帯電話に多数回の電話をして不安をあおったこと
・携帯電話に電話をした後には相手方の勤務先に電話をして不安を高めたこと
・携帯電話の着信から電話をかけてきた相手方に対して、500万円もの高額の慰謝料を請求して、交渉材料として相手方の人事等に関する権限を有する機関への通告を検討していることを伝えて畏怖困惑させたこと
・相当な慰謝料額よりも高い賠償金を支払わせようとしたこと

 

上記の懲戒処分の公告では、500万円の慰謝料の請求額が高過ぎるということが繰り返し指摘されています。
一般的に不倫の慰謝料請求の事件では、請求額としては500万円はときどき見かけます。
現行の実務の観点からは、500万円の慰謝料請求は通常の不貞行為の場合には高額過ぎて、弁護士による請求としては問題であるということがわかります。
(なお、弁護士に依頼せずに、弁護士ではない”業者”や他の”士業”に事実上依頼して、500万円といった高額な慰謝料請求をして回収しようとすれば、依頼を受けた業者等は弁護士法違反の犯罪となり得ます。その依頼者は弁護士法違反には問われないとしても、その業者等について恐喝罪などが問題になれば共犯として刑事責任を問われるおそれがあります。)

不倫の慰謝料として500万円とか300万円とか請求された人は、言われるままに支払う必要はないです。
不倫の慰謝料請求の依頼を受けた弁護士は、500万円の慰謝料請求を漫然と行えば、弁護士会に懲戒請求をされて、懲戒されるおそれがあります。

 

受任通知を送らなかったのは、直接の電話交渉で高額な”慰謝料”を支払わせようと考えたのかなと推測します。
相手方の職業は不明ですが、人事等に関する権限を有する機関への通告 という脅しが可能な相手だったようですから、それなりの規模の勤務先であったようですし、人事に影響されると困る立場であったことから、不当に高額な慰謝料でも支払うことができる相手であったのかもしれません。

携帯電話や職場に電話して不安を煽った上で、人事等に関する権限を有する機関への通告を検討しているということ伝えて畏怖させたという公告の記載事実からすれば、恐喝未遂罪(刑法249条、250条)の犯罪といえるのではないかと考えます。
この点だけを取り上げても、東京弁護士会の業務停止1月という懲戒処分は軽すぎたのではないかと思います。
当該弁護士が所属していた弁護士法人も懲戒されるべきだったのではないかと考えます。

 

配偶者に不倫された人には、配偶者(夫・妻)の不倫相手の職場や人事権限のある機関に不倫等の事実を通告することができる正当な権利は特にありませんし、弁護士にもありません。
不貞行為を職場に報告するといった行為は、名誉毀損やプライバシー侵害にあたり、不倫の問題とは別に法的責任を問われる可能性がありますので、そのような行為はしない方が良いです。

 

この懲戒処分は、日弁連に審査請求がされて、日弁連で、業務停止1年の処分が戒告の処分に軽減されています。(『自由と正義』2019年4月号公告)
軽減された理由は、懲戒処分の軽重の判断になった情状が、認められないというものだったようです。情状の具体的内容は不明です。