不貞関係にあった第三者に対する「離婚慰謝料」の請求について原則として否定した最高裁第三小法廷平成31年2月19日判決(以下「本判決」という。)が出ました。
本判決は、XさんAさんの夫婦のAさんと不貞関係を持ったYさんに対して、不貞を原因として離婚したとしてXさんからの慰謝料請求をすることを否定した判決です。
本判決の事案は、被上告人(X)が、上告人(Y)に対し,Yさんが被上告人の妻であったAさんと不貞行為に及び、これにより離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったと主張して、不法行為に基づき離婚に伴う慰謝料等の支払を求めたものです。
不貞行為による慰謝料ではなく、離婚の慰謝料という法律構成になったのは、不貞行為やYさんの存在をXさんが知ってから3年の消滅時効期間が経過していたからです。
【時系列】
H6年3月 XA結婚。
同年8月 長男出生
H7年10月 長女出生
平成21年6月以降 AはYと不貞関係
平成22年5月頃 XはYとAとの不貞関係を知った。
AはYとの不貞関係を解消しXとの同居を続けた。
平成26年4月頃 長女の大学進学を機にAはXと別居。
Aはその後半年間、Xのもとに帰ることも、Xに連絡を取ることもなかった。
平成26年11月頃 XはAを相手方として夫婦関係調整の調停の申し立て。
平成27年2月25日 XA間で離婚の調停が成立。
【請求内容と、裁判の結果】
XはYに対して、
①慰謝料300万円、
②調査費用の一部である150万円、
③弁護士費用相当額45万円
の合計495万円と離婚日から支払い済みまでの遅延損害金を求めて提訴した。
一審(地裁)と控訴審(高裁)は、合計198万円の支払と遅延損害金を認めた。
上告審(最高裁)で逆転して、Yの勝訴となった。
<離婚は、不貞慰謝料の増額事由となるか>
不貞行為の慰謝料請求では、不貞行為を原因として離婚した場合は、離婚したことが慰謝料の増額事由とされる場合が多かったと考えられます。
本判決が出た後も、不貞の慰謝料請求において離婚を増額事由として良いのかどうかという問題があります。
確かに本判決は夫婦関係にない第三者に対する離婚に伴う慰謝料を否定しただけで、不貞の慰謝料請求について直接判断したわけではありません。
しかし、形式的に離婚の慰謝料ではなく不貞の慰謝料と主張すれば、離婚についての責任を夫婦関係にない第三者に及ぼすことができるというのは、詭弁に過ぎます。
本判決の理解からすれば、離婚については、夫婦関係にない第三者(不倫相手)に対する慰謝料請求の増額事由とすべきではありません。
本判決は、その理由中で次のとおり判断しました。
夫婦が離婚するに至るまでの経緯は当該夫婦の諸事情に応じて一様ではないが、協議上の離婚と裁判上の離婚のいずれであっても、離婚による婚姻の解消は、本来、当該夫婦の間で決められるべき事柄である。
したがって、夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は、これにより当該夫婦の婚姻関係が破綻して離婚するに至ったとしても、当該夫婦の他方に対し、不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合があることはともかくとして、直ちに、当該夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはないと解される。第三者がそのことを理由とする不法行為責任を負うのは、当該第三者が、単に夫婦の一方との間で不貞行為に及ぶにとどまらず、当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情があるときに限られるというべきである。
以上によれば、夫婦の一方は、他方と不貞行為に及んだ第三者に対して、上記特段の事情がない限り、離婚に伴う慰謝料を請求することはできないものと解するのが相当である。
本判決は、
「夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはない」と言っている以上、
離婚の慰謝料という構成でも不貞の慰謝料という構成でも、
離婚について第三者が不法行為責任を原則として負わないとされるはずですから、
離婚を不貞の慰謝料の増額事由の一つとするのは本判決に反するというべきです。
つまり、本判決によって、一方が不倫した夫婦が「離婚したこと」は不倫相手に対する慰謝料の増額事由とすることは原則として否定されたと考えるべきです。