前回のコラムでは、不倫と営業秘密について書きました。そのコラムで書きましたように、本日(11月15日)、札幌商工会議所さっぽろサムライ倶楽部シリーズセミナー2019で、不正競争防止法について ~営業秘密や信用毀損の話~ と題してセミナーをいたしました。
この機会に、今回のコラムでは、不倫と信用毀損行為について取り上げます。
信用毀損行為(営業誹謗行為とも言います)は、不正競争防止法2条1項21号に規定されている「不正競争」の行為の一つです。
前回のコラムでも少し触れたように、不正競争行為に該当すると損害賠償や差止請求の対象となり得ます。
不正競争防止法の信用毀損行為は、「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」です。
不倫の情報を流すことがこの信用毀損行為に当たるかを考えてみます。
例えば、ある企業が、競業他社の社長が不倫をしているという情報を、その他社の取引先に流したとします。
このような競業他社に関する不倫の情報を他に知らせる行為は、不正競争防止法の信用毀損行為になるかが問題になり得ます。
会社の社長あるいは従業員が不倫をしているという話だけでは、その会社の信用を傷つけるとまではいかないかもしれません。
しかし、企業の業種によっては、実際上は顧客等からの信用に大きなダメージを受けることがあり得ます。
そこで、不倫の情報を流すことは、「営業上の信用」を害するものといえるのか問題になりそうです。
不倫自体は、企業の商品やサービスとは直接の関係がないですし、企業の支払能力等にも通常は関係がないので、不倫の情報で「営業上の信用」が害されるとは言えなさそうにも考えられます。
しかし、例えば社長の不倫の情報は、その企業の顧客やその他第三者からの評価に基づく信頼を間接的に低下させ得ると考えられます。主婦向けの商品を扱う会社なども会社代表者の不倫は客離れを招きそうですし、顧客から財産を預かったり金融商品を販売するような”堅め”の企業だと、会社が適法あるいは適切に経営されているのか不安を生じさせます。弁護士などの士業であれば、社会的に容認されているとは言えない不倫をしたというのは、相談者・依頼者や社会一般からの信用を低下させるでしょう。
裁判例では、経営者の経営能力についての批判が営業上の信用を害するものに当たるとしたものがあります(大阪高裁平成17年10月27日判決)から、「営業上の信用」を害する情報は、企業の商品やサービスなど直接に企業の信用を害するものに限られるわけではないです。
したがいまして、会社の社長の不倫の情報を他に知らせる行為は、会社に対する顧客や第三者の信頼を害するものとして「営業上の信用」を害する行為に当たり得ます。
ただ、会社の単なる従業員の不倫は、その従業員が会社の経営や商品・サービスを左右しないのであれば、会社そのものに対する信頼を害するとは言えないと考えられます。
競業他社の社長が不倫をしているという情報をその他社の取引先に流す行為は、信用毀損行為になり得ると考えます。
ただし、信用毀損行為に当たるためには、「虚偽」の事実を告知・流布することである必要があります。
つまり、信用毀損行為が成立するには、不倫の話が虚偽の情報であることが必要です。
また、不倫が実は虚偽であることを知らなかったとしても、信用毀損行為の差止請求には故意・過失は要件とされていませんので、差止請求の対象にはなります。
不倫が実は虚偽であることを知らずに流したとして故意がなかったとしても、過失に基づく損害賠償責任は問われるでしょう。
以上のとおり、競業他社の社長等の不倫の虚偽情報を取引先等に流すのは、「不正競争」になり得て、法的な問題が生じますので、迂闊にそのような行為をすべきではありません。
なお、故意に虚偽の事実を告知・流布すると、信用毀損罪(刑法233条)に問われ得ます。
ちなみに、不倫をしていたのは虚偽ではないからといって、その情報を流しても良いことにはなりません。
不倫の情報を流された者に対する名誉毀損等の問題になるからです。
結局のところ、まともな大人、まともな企業であれば、競業他社のことであっても、他人の不倫について取り立てて言うものではないです。